[ ]
 人口着色料


 笑え。
 上を向いて、笑え。
 太陽を睨みつけて嘲笑ってやるんだ。
 ほら、空は晴れている。

 こつん。
 雨にしてはやけに硬い音で、オレの額に何かぶつかってきた。
 イテェ、と叫ぶ前に、ざらざらざらって小石が転がるような音がして。目の前にどばーっと降って来たのは。
「……アメ?」
「そ」
 棒の先にくっついた丸い砂糖玉がいっぱい。呆然と呟いたら、何と返事が返ってきた。その声に聞き覚えがありまくったのは気のせいじゃない。むしろほかにこんなことしそうなヤツが思い付かねぇ。
「やほ、ナールト」
 振り返ると案の定、カカシ先生がいつもの何考えてんだか分かんない顔で立ってた。
「センセー、何」
「んー、飴?」
「そんなん見りゃ分かるってば。オレは、どーしてこんなことしたのか訊いてんの!」
 気が付くとオレの周りにはアメがごろごろ転がっている。勿論ラッピングされてるから汚れても大丈夫だけど、道の上に食べ物が落ちてると勿体ない気がするじゃん!
 あーもー、と唸りながらオレはアメを拾い集める。悔しいけどカカシ先生の手はオレよりかなり大きいから、オレの手には全部入りきらない。山盛り拾ったのにまだオレの周りにはカラフルな色が一杯。
「センセー」
 にこにこ笑いながらこっちを見てる先生を見上げると、ちょっと多かったねぇなんて呟きながら残りを拾ってくれた。
 手から零れ落ちそうなアメを、先生の手が掬い上げる。
 なんだか胸がきゅうとして、オレは先生の視線から逃れるように下を向いた。
「ナルトにね、あげようと思って」
 優しい声が上から降ってくる。何だよ、こんなの反則じゃん。だって空は青いのに。地面は乾いてるのに。
「……こんなに、食えねーってば」
「気が向いた時に食べてよ、腐りやしないからさ」
「夏になったら、溶けちゃうってば」
「じゃあ冷蔵庫に入れとこうか」
 ずるい、ずるいずるいずるい。
 カカシ先生は悔しいほどオレより大きくてイイ男なんだ。
 手に持っていたアメを、カカシ先生の手に押し付ける。勢いが良すぎて零れてしまったアメを拾って、べりべりと包装を剥いた。人口着色料たっぷりの、青色のアメ。
 口の中に突っ込むと、少しだけしょっぱいソーダの味がした。


[ text.htm ]